ふもと企画的日常

森羅万象、世迷い事、日々思うことを書き連ねていきます。

しあわせの記憶

単身赴任である。

 

単身赴任だと奥さんの有り難みがよくわかる。

 

なので、帰った時はなるべく一緒に

過ごすようにしている。

 

先日も買い物がてら、少し足を伸ばして

ドライブに出掛けた。

 

私が運転、奥さんが助手席。

 

最初は日常の出来事についての会話。

 

で、最近は今は大学生の息子の小さい

頃の話をすることがある。

 

彼女が語りだした。

 

息子が、小学校1年生の時、

図工の時間、

楽しかった食事を

絵にするという授業があったらしい。

 

多くの生徒が、回転寿司やファミレスの

食事の風景を絵にしたらしい。

 

対して、うちの息子は、家での食事の

風景を絵にした。

 

酒飲みでワイン好きな私が

ワインの肴にするようなおかず

チーズ、パスタ、生ハムのサラダなどなどを奥さんにオーダーして

「今日はイタリアンにしよう」と。

 

その風景を絵にしたらしい。

そこに小鉢が三連でついている

食器が描かれており

その小鉢にオリーブの実やら

オイルサーディンやら盛り付けていた

奥さんはすぐ気がついたらしい。

 

ワインに酔って上機嫌に

喋る父親

普段はまったくお酒を飲まないのに

イタリアンの時はカシスソーダを

薄く薄く炭酸で割ったのを飲み

少しだけ酔って優しくなる母親。

弾む会話に耳を澄ませ、自らも会話に

入り込んでいく。

彼にとっては「イタリアン」はいい思い出になっているらしい。

 

思えば、もう50を過ぎた私にもそういう記憶がある。

 

確か息子と同じ小学校1年生か

2年生だったと思う。

 

大晦日だった。

 

商売を、していた父親

メモ代わりに使っていた

居間にあった小さな黒板に

絵を描きだした。

普段はまったくそういうことを

しない人だったので、少しびっくりした。

 

絵は海から昇る太陽だった。

 

初日の出らしい。

 

怪訝そうに見ていた私や妹の視線を

感じたのかどうか、

「ほら、そっくりやろ」

と指差したTVからは

アナウンサーの無情の声が。

 

「1977年の最後の太陽が沈もうとしてます」

 

家族中、大爆笑。

 

台所からは、母がつくるおせちの

いい匂い。

石油ストーブの上におかれたヤカン

からは暖かな湯気がでていた。

 

今、思い出しても、あの瞬間

間違いなく私は幸せだったと思う。

そしてその記憶は、私という人間の

根となり、その後の様々な出来事から

私を支えてきたと思う。

 

願わくば、酔っ払い親父の

きまぐれな酒宴が、

幸せの記憶として息子の記憶に刻まれ

彼を支えてくれることを。

 

切に。